宮澤秀巖

語録集「苔」

語録集

故宮澤秀巖先生が遺したお弟子様への師事語録の一部。
美術品、芸術品の定義。書の次元の完成。現代日本において失われた教養への警鐘など、
秀巖先生の書に対する探究・究明の姿勢が窺えます。

「苔」

苔は大樹と共存するから生きられる。大樹は苔に恵みを与へ、苔は大樹に恵みを与へる。人は苔を見て美しく感ずる。自己を主張する草は大樹の下では育たない。人の世も我が強く自己を主張し過ぎると、自己虫者となって阻害され、孤立する。信念が無く、生涯の目的も無く、只だ我に生き過ぎる人は書の上達も遅い。之は三千七百名の指導の結果より感ず。人を憎み、人を敵対視する人間は悲しき哉の存在者で有る。争いはすべて自己虫から始まる。仮令下草に生きようと、苔は素直に満足し、美と情感を人に与へてくれる。以上の丈も苔も、偏と旁、冠と沓、点と線、点と点、線と線、紙と文字、文字と墨色との関係を差して、仮令の例として取り上げたるもの。更に書の線質は、清く正しく尊きもので有らねばならない。格調高きもので有らねばならない。

心の書をものさむとする者の心す可き心で有る。学びは死に至る迄止めず、道は死の寸前迄求むるもの。羯諦、羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提娑婆訶と経典を引用し、書道の真髄を説く。

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